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最高裁判所第一小法廷 昭和49年(オ)302号 判決

上告人

株式会社和信商会

右代表者

江崎邦雄

右訴訟代理人

菅生浩三

被上告人

日機工業株式会社

右代表者

東宗忠

右訴訟代理人

小松正次郎

被上告人

椿本興業株式会社

右代表者

椿本照夫

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人菅生浩三の上告理由第二点について。

準消費貸借契約に基づく債務は、当事者の反対の意思が明らかでないかぎり、既存債務と同一性を維持しつつ、単に消費貸借の規定に従うこととされるにすぎないものと推定されるのであるから、既存債務成立後に特定債権者のためになされた債務者の行為は、詐害行為の要件を具備するかぎり、準消費貸借契約成立前のものであつても、詐害行為としてこれを取り消すことができるものと解するのが相当である。これと見解を異にする所論引用の大審院大正九年(オ)第六〇二号同年一二月二七日判決・民録二六輯二〇九六頁の判例は、変更すべきものである。ところで、原審の確定したところによれば、被上告人日機工業株式会社は、昭和四〇年二月一五日債務超過により倒産した訴外興和機械株式会社(以下訴外会社という。)に対し、昭和三九年九月一〇日から昭和四〇年一月三〇日までの間に生じた貸金債権金二九九万二八四〇円及び売買代金債権金五一一万五七四〇円を有していたが、同年二月二四日、訴外会社との間で、右各債権の合計金八一〇万八五八〇円を消費貸借の目的とする準消費貸借契約を締結したところ、訴外会社は、右契約締結前の同年二月一九日に、債権者の一人である上告人に対し、他の債権者を害する意思をもつて、自己の被上告人椿本興業株式会社に対する請負代金債権を譲渡し、右譲渡の通知書は同年二月二一日同被上告人に到達したというのであり、右事実によれば、右債権譲渡行為を詐害行為として取消を求める被上告人日機工業株式会社の請求を認容した原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第一点、第三点及び第四点について。

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(下田武三 藤林益三 岸盛一 岸上康夫 団藤重光)

上告代理人菅生浩三の上告理由

第一点〈略〉

第二点 原判決は、次の点について、民法第四二四条の適用を誤つた法令の違背があり、判決に影響を及ぼすことが明白である。

周知のとおり、民法第四二四条を適用すべき場合においては、債権者の債権は、詐害行為となるべき行為の以前に発生したものであることを要する。従つて、例えば詐害行為とされる行為の以前に成立した売掛代金債権について、行為後にされた準消費貸借によつて発生した債権については、取消権は成立しないものとされる。(大判大正九・一二・二七民録二六・二〇九六)

本件についてこれを見るに、詐害行為とされる債権譲渡がされた日は昭和三九年八月末であり、仮に百歩を譲つても昭和四〇年二月中旬(遅くとも二月一九日以前)を降ることなく、又対抗要件たる譲渡通知は昭和四〇年二月二一日には完了している。一方、被上告人日機工業株式会社(以下日機という。)の本件詐害行為取消の基本債権は、丙第六号証の大阪法務局所属公証人伏見正保作成更第二三六二八号準消費貸借契約公正証書により右証書作成以前の貸金機械代金等を右証書作成の日たる昭和四〇年二月二四日準消費貸借の目的として発生成立した債権である。従つて、日機から上告人に対する本件詐害行為取消権の行使については、民法第四二四条の要件を欠くものであることはまことに明白であり、これを看過した原判決は、正に民法第四二四条の適用を誤る基本的誤謬を犯したものというべく、速かに破棄されるべきものと思料する。〈以下略〉

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